『人魚姫のごめんねごはん』がすごい。
ギリギリのバランス感覚で書かれたカニバリズムコメディ漫画でした。
内容を簡単に説明すると、
人魚姫が友人である魚料理を食べて魚の味に目覚める話です。
もうね、魚料理を食べたときの反応がすごいです。
めっちゃ美味しそうな顔でこう言います。
「お友達を食べちゃった」
食べちゃったじゃねーよ!!!
これ殺された友人の人肉を食べてカニバリズムに目覚めちゃう系サイコパスカニバリズム漫画かよ!
リンク先の説明にもある通り、この作品はグルメ漫画です。
グルメ要素を盛り込んだ日常漫画、最近の流行りですよね。
昔から人気ある題材でしたが、いまではクレヨンしんちゃんの野原ひろしが主役のグルメ漫画まで出るくらいに注目されている題材です。
この漫画も日常系グルメ漫画……でありながら、主人公を人魚姫にして魚料理を食べさせるだけであっという間にオンリーワンの作風を打ち立てている。
これがすごい。コロンブスの卵かよってくらい発想の勝利ですよ。
だって、極々普通の料理を食べているだけなのに当人からすれば共食いなんだもんな……。
このコメディタッチでありながら、「友達を食べて、しかも美味しいと思ってしまった」ことからくるグロテスクさと背徳感。この日常系でありながら、常なら感じようのない気まずい気分を与える読後感が唯一無二です。
ただ……
さらにすごいのは、読み終わってからなんですよね。
ちょっと時間を置くと気づくことなんですが……
魚が魚を食べるなんて当たり前じゃねーか!!
食物連鎖だよ!!!
魚食べなかったら何喰ってんだよ、プランクトンかよ。
そうなんです、
メインに据えられている魚が魚を食べることって、考えてみると普通のことなんですよ。
魚が小魚の集団を丸呑みにしてる映像を見たって、グロテスクと感じることなんてあまりないでしょう。少なくとも、人間が人間を食べることより抵抗感を覚えることは早々ないはずです。
『ごめんねごはん』の特徴として、本来は問題のない行為を、さも問題ある行為のように読者に感じさせる構成が上手いんですよね。
「当たり前じゃん」「食物連鎖じゃん」と読んでるうちに思わせない。
それもひとえに「意思疎通の取れる友人である」こと、「普段から魚たちと友人である演出がある」こと。
さらに「友人同士でのエピソードや魚たちの交流が演出」されていて、作品世界に卑近さを感じさせるために「魚は人間たちに捕まってしまう」という現実的な問題からくるエピソードを盛り込み、人魚姫当初の目的が「釣られてしまった友人の供養のため」だった……。
これらの要素が組み合うことで、読者が主人公である人魚姫とタブー意識を共有してしまうのですな。
それでもって、冷静に考えてみると問題ないことがわかる題材であるからこそ、慣れるとグロく感じるという抵抗感が薄れて、ユーモアに味わい深さを感じるわけです。
そもそも、「お友達を食べちゃった」といっているけれど、釣られた友人が料亭で自分に出されるなんてどんな可能性なんだと。
だから実際に友達は食べていないっていうのもグロくしすぎないためのミソですね。
いやまあ本当に食べてるかもしれないけど、どちらにせよ、大事なのは本人がそう思い込んでいることです。だって人肉食べさせられて「それおまえの友人だよ」と言われたようなもんですからね!!
総括すると、
「カニバリズム(タブー)に目覚めてしまった悩みの話」
こう書くとかなりヤバい話でもあるんですが、それを人魚姫でやりつつ、前述の通り考えれば考えるほど何重にも予防線が張られていて読者を突き放しすぎずコメディに収めるバランス感覚。これがすごい、という話でした。
1話ラストシーンの恐ろしさ、笑えるのに笑えないという感情が同居させられて見物ですよ……。
オススメです。
2017/01/16 15:08 |
雑記
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